
高知県の最新技術で行う農業に惹かれて
環境制御型農法と出会う
高知県は山林に囲まれているため空気が澄んでいて自然豊かな地ですが、県の8割ほどが山林であり平地が少なく野菜などを耕作できる土地が限られていました。限られた土地で、すこしでも多くの収穫ができるようにするため。高知県ではビニールハウスを活用する農家さんが増えていきました。
高知県高知市春野町で来年から独立してきゅうりを育てたいと新規就農の準備をしている井形年成さんは滋賀県出身。井形さんは、ある農人フェアを訪れたときにいくつかの県ブースを見て回りながら、高知県のブースで説明されたオランダ型ともよばれている「環境制御型の農法」が気になりました。高知県の農家では、この環境制御型を取り入れているところが少しずつ増えており野菜の収量を増やすために、技術面の工夫をしています。
もともとはいつか独立して、仕事をはじめたいと思っていた井形さんは、製造業をやめたあとにハローワークなどで、いろんな職をみながら自分の将来に合う仕事を探していました。父親の実家が農家ということがあって、農業に馴染みがあり、そして何かモノをつくる仕事がしたいという想いの二つが重なりで、農家になろうと考えるようになっていきます。そんなときに高知県で行われている、環境制御型農法に出会った井形さんは、環境制御型とはどんなことをするのかを知るため、高知県立農業担い手育成センターを見学することにしました。この見学の際に、農業って自分たちが思っているものとは変わったんだということを知り、感動したことがきっかけで、農業を始めてみようと思ったと井形さんはいいます。
ひとり立ちできるように学ぶとき
井形さんが見学した、高知県立農業担い手育成センターは高知県高岡郡四万十町にあります。研修施設内には環境制御型のハウスのほかにも、いろいろな新しい技術を取り入れた複数の大型ハウスが広い敷地の中に立ち並んでいます。農業をまったくやったことがない人でも農業の基礎が学べて、さらに新しい技術にも触れられる環境としても整っています。歴史のある研修施設であることから、ここで学んで独立した先輩農家さんも多く、新しい研修生を引き受けて農家人として独立できるように、実際の農作業のノウハウを伝える人のネットワークが整っていることも高知県の魅力のひとつ。
井形さんはおととしの8月~昨年6月末まで就農希望者長期研修を受け、現在はきゅうりを環境循環型で早い時期から育てている、矢野清和さんのところで研修中です。農家研修は昨年の8月1日からはじまり、今年の7月31日までの1年間と決まっているので、その期間しっかり農業を学びます。その後は独立して自分のハウスできゅうり農家としてスタートすると話す井形さんはとても頼もしい目をしています。
井形さんは、将来農業を軌道に乗せて家族を滋賀県から呼んで、いっしょに高知県で暮らしたいと考えています。家族と暮らすことを考えたとき、祖母が高知市内の病院に通いやすいように、市内近郊の場所で農業をスタートさせたいという想いをベースに、どの地区で農業をするのが良いのかなども、研修中に相談しながら、育てる品目と合わせて考えた結果、春野町を選びました。他にも南国のシシトウという選択肢もありましたが、研修で育てながら、自分に向いている品目はきゅうりと定まったと教えてくれました。新規就農する人にとって育てやすい品目として勧められるのはきゅうり、ししとう、ピーマン、茄子の4種類で、その中から育てたい品目と暮らす土地に向いている作物を選ぶことが、比較的順調に農業を始められるポイントなのです。
きゅうりは手をかけるだけ実り豊かに
「ハウスの中は暑いですが、工場内とは違って空気がきれいなので」と井形さんは日々野菜の生育状況に合わせてハウスに入り、計画を立てながら手入れしていきます。「ちょうど5月頃は、きゅうりの葉っぱを取る摘葉とツルおろしの作業が中心で、季節に合わせてこまごまと世話をしてあげれば、きゅうりは育つ作物なんですよ」と教えてくれました。これから農業を始める人には、きゅうりはお勧めできる品目であると井形さんはやってみて肌で感じています。小さなツメのような道具を使って、きゅうりを収穫する姿がとても楽しそうでした。
井形さんは実際に新規就農者として独立するにあたって、いくつか給付金制度のことも農業担い手育成センターで教えてもらい、最適な支援制度を利用しています。経営としてきちんと成り立っていくように必要なことも学びながら農家としてスタートする準備を進めています。高知県では、人のつながりが強く、比較的飲み方が多いかな?と暮らし始めて感じたそうです。今、お世話になっている矢野清和さんの家でも、ときどき従業員一同集まって飲み会を開いていただけるそうですが、自然と近所のみなさんが加わった形で飲み会が始めるので、いろんな方々とお話をしながらお酒を飲む機会が高知県での暮らしの魅力でもあります。
井形さんは、独立後しばらくひとりで頑張っていくと意欲的に将来をみています。少しでも多くの収量を得るための努力と研究を重ねていき大きなハウスで井形さんが育てたきゅうりがたくさんの市場に並んでいく日が、もうすぐそこに来ています。