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桂華堂商店が活版印刷を続ける想い

活版印刷の持つ凹凸の温かみ

活版印刷が生み出す凹凸の温かみのある名刺をもらったとき、いつもの名刺交換よりも温かい気持ちになります。私は活版印刷の名刺をもらうと、その感情と同時に、字がピシっと凹凸で揃っている様が、かっこいいなと思うのです。

昔は、この「活版印刷」という、活字を組み合せてつくった版にインクをつけ、圧力をかけて印刷する技術が主流でした。分かり易く言えば、スタンプを押すように、印刷を繰り返します。手書きでの増刷から、活版印刷にかたちを変えたと言われ、大きな技術革新の一歩でした。しかし、時代とともに、パソコンでデザインを作り、印刷する技術「DTP」へと進化しました。

ひょんなことから香川県の琴平町にある桂華堂商店さんを訪ねる機会がありました。約80年の歴史があり、現在3代目の山西正晃さんが会社を守っています。桂華堂商店では、活版印刷が普通の印刷と比べて、9対1くらいの割合にまで需要が減ってきましたが、活版印刷とDTP両方の良さを活かそうとしています。やはり活版印刷でしかできない仕事があるからでした。

活版印刷を続ける理由

活版印刷が得意とする印刷に、薄い紙や分厚い封筒など特殊な紙への印刷があります。長く会社を続けてきたため、地域のお得意様も多くいます。そのお得意様を大事にしたいという想いから、世の中の需要だけでない価値を感じて、「活版印刷を残す」という結論に至ったと言います。

お得意様の仕事の1つに、「こんぴらさん」こと、金刀比羅宮の印刷物があります。神社へ参拝にいくと、いただくものはだいたい薄い紙に印刷してあると思います。その印刷物は、この活版印刷によるものです。昔から続いているために、活字でできた版も組み合わせた状態で、ひもで一括りにしてあります。その他、請求書や領収証も薄い紙であることから、いまだにこの活版印刷を使用している会社があります。

最近では、アーティストが活字自体を欲しいと問い合わせてくることもあるそうです。1文字ずつ、味わいがある活字は、芸術家も認める美しさのようです。ただし、この鉛の活字は、現在生産されておらず、活字がすり減ったらおしまいとのこと。印刷に多く使う活字は、何個かのストックがあり、多少長くは続けられるものの、「今後は需要と技術の引き継ぎ手が問題になってくる」と、活版印刷の職人、長谷川均(ひとし)さんが教えてくださいました。

活版印刷を間近で見た凄み

活版印刷は、活字を並べるだけと思うかもしれませんが、活版印刷の技術は印刷することから反転して活字を並べることと、隙間など細かい調整に熟練した技術が必要です。何より、辞書並みに膨大な量から活字を探して組み合わせることから、記憶力・技術力・体力と様々なスキルが必要となります。

機械も今は直せる人がほとんどおらず、壊れたら自社でメンテナンスをすることも。鉛の活字も、機械も技術も、そして世の中の需要も衰退していますが、続けていく意味を感じながら、一歩一歩努力をされています。

最後に、活版印刷の素晴らしさを再認識した作品があると、3代目の山西正晃さんが教えてくださいました。その作品は、ニューヨーク発のHOLSTEEという会社の“THIS IS YOUR LIFE.” というマニフェストを活版印刷しポスターにして作品にしたものです。この作品は、文字だけで表した斬新なものです。このマニュフェストには、英語で、以下の2文も書かれています。

――考え過ぎるな、人生はシンプルだ。
――私たちはその違いによって一つになれる。

これは、桂華堂商店そのものように感じました。

活版印刷は、1枚1枚丹精込めて刷るので、個性が出ます。この個性を良いと言ってくださる方のために、活版印刷を続けています。新しい技術「DTP」が出てきても、昔の良さを認め、共存しようとしています。私たちは昔の良さと今の良さの両方を見直し、今必要なものは何かを見極めながら進んでいくときにきたのではないでしょうか?